株式会社インターブランドジャパン様

コーポレートブランディングとプロダクトブランディングの変遷(後編)

ブランディング

マーケティング

左:株式会社インターブランドジャパン 代表取締役社長兼CEO 並木様 / 右:LMP 高橋、久松

業界の有識者にインタビューを行う当シリーズ。前回に引き続き、インターブランドジャパン代表取締役社長兼CEO並木様に、コーポレートブランディングとプロダクトブランディングの変遷についてお話を伺いました。

目次
●グローバル企業とローカル企業のブランディング ~インターブランド社における不動産企業事例~
 グローバル企業とローカル企業の目指す先
 インターブランドの事例にみる不動産企業ブランディング


●過去の成功体験に囚われていないか ~手段としてのデジタルマーケティング~
 ブランドを作り上げる要素
 手段としてのデジタルマーケティング、DX

グローバル企業とローカル企業のブランディング ~インターブランド社における不動産企業事例~

グローバル企業とローカル企業の目指す先

久松 不動産企業には全国展開のプレイヤーもいれば、地元に根差したローカルキングと言われるプレイヤーもいます。それぞれの立場の企業がコーポレートブランディングに取り組む際は何から始めると良いのでしょうか?

並木様 例えば、グローバルのプレイヤーと取り組む場合に難しい点は、ブランドプロミスを決める際、すごく抽象度があがることです。例えば国を跨げばその国ごとで求められるニーズも変わってきます。また、大きな企業では下の階層に複数の事業がぶら下がっていることが多く、事業が増えれば増えるほどよりブランドプロミスが抽象的になってしまうのです。それに対して、地方のトッププレイヤーで言うと、そういった悩みは少ないのではないでしょうか。ある程度限られた地域の課題というのはすごく具体性があるのだと思います。
 福岡でも大阪でも、「そこ」にいる人の特性、その地域にいるからこその特性ってありますよね。文化や風習、人となり、インフラに根付くものなどです。その環境の中でどういった人たちなのか、地域の特性をちゃんと見ていくことができるのか、それともそこが抽象的になって「不動産だからこうでなきゃいけない」という風になってしまうのか。そういったことをどうバランスさせていくのかが、その企業のブランドプロミスが意味を持つかどうかのすごく大きな分かれ目かなと思います。
 例えば弊社は大学のお仕事もいくつかやらせていただいていて、最近だと北海道の札幌学院大学などの事例があります。東京大学や京都大学がクライアントであればターゲットは日本中ですが、地方の大学だと基本的には「そこ」にいる人がターゲットになりますよね。そうすると「そこ」にいる人たちに求められているニーズやその人たちの悩みや、その人たちが大学にして欲しい約束、などをどれだけ考えられるかでそのブランドプロミスの持つ意味がすごく変わります。大学としての意味性だけを追求していくと「そこにある意味」「地域に根差している意味」がなくなってしまいます。「そこ」の地域特性にこだわるべきだと思いますし、下手なコンサルや下手なクリエイターを入れるとすぐ抽象的な話になって「不動産だから」といった話しになりがちですが、やはり「地方として」にこだわるというのが地方のトッププレイヤーがやらなきゃいけないことなのかなと思います。もちろん、その先に全国展開を狙っていれば話は別ですが。

久松 その視点で考えていかないと日本中の企業のブランドプロミスが全部金太郎飴のように、みんな同じになってしまいますね。

並木様 そうですね。金太郎飴みたいなことは、全国展開しているプレイヤーがやればいいんです。 全国展開プレイヤーが「全国で同じ約束を掲げて全国で同じクオリティのサービスを提供します」というのは、それはそれで価値があることですよね。しかし、ローカルの人はそこで戦っても意味がない。ですが現状では、日本国内だとそういったブランドプロミスが多い印象です。ただ、最近はローカルの大切さを若い世代が気づくなど、良い方向に向かっているのではと思います。イメージとして、不動産はまだそのステージにいない気がしますね。不動産、金融などは、全国画一的に、ローカルプレイヤーと全国展開のプレイヤーが同じ土俵で戦っている状況は多い気がします。

インターブランドの事例にみる不動産企業ブランディング

高橋 不動産企業においてブランディングに成功している会社であったり、ブランディングをうまく進めようとしているなと感じる企業はありますか?

並木様 まず大和ハウスグループが挙がりますね。大和ハウスグループは過去15年以上かけて、しっかりとブランディングを進めてきました。ブランディングの基礎となるCI/VIの整備から始まり、戦略的な体系の整理によりブランド価値創出の好循環作り、そして価値の発現に向けた様々な浸透施策を実施してきました。特筆すべきは、いま話題になっているパーパスがブランドの根源にあるべき姿で据えられていることです。グループブランドシンボルを「エンドレスハート」と呼称している、そのことからでも、その片鱗を感じられると思います。また、社内における浸透と社外への浸透を両輪として回していることも、注目に値するでしょう。そして、何よりもコーポレートブランドをしっかりとプロダクトコミュニケーションでも大切にしていることは大切です。
 不動産仲介系はすごくプロモーショナルなイメージが強いですが、それではこれから厳しくなるのではないでしょうか。というのも、プロモーション系の話を進めているとブランドでの差別化ができていきませんし、「物件ごとの条件」の話になってしまうためです。
 また、先日ニューヨークにいる友人と話をした際も「ウーバーイーツとリフトって全くブランドで戦えてない」という話になりました。消費者からすると正直どちらを選んでもよく、あとは機能勝負です。企業としての戦い方がコモディティ化してしまっています。
 デベロッパーはそれぞれブランドの色を出そうとしている感じがしますよね。ただ、我々としては実態をどう作り上げるかがすごく重要だと思っています。 先ほどお話しした清水建設の「子どもたちに誇れるしごと」と大成建設の「地図に残る仕事」だったら、何をしたら地図に残る仕事になるかな?子どもたちに誇れるには何をしたら良いかな?といった会話が社内にあり、「じゃあこれはやらないけどこれはやる」と意思決定することになるわけですよね。その結果、取り組みとしてA社がやることはB社はやらないよね、というのがすごく重要だと思っています。こういうことは、事業としてある程度モノづくりに近いことをやっている会社の方がやりやすいというのは現実的にあると思います。少なくとも扱っているモノに独自性があるためです。

高橋 家を買うとき、売るときにブランド想起してもらえれば良いかといった感じに見えますよね


過去の成功体験に囚われていないか ~手段としてのデジタルマーケティング~

ブランドを作り上げる要素

高橋 仲介だと消費者が「その会社だから」といって選ぶというのがあまりないですよね。ただ、「会社が大きいからなんとなく安心」というのはありますけど、良い営業担当者に会えるというのが消費者にとって一番いいというのは見ていて思います。その辺はもうちょっと光を当てたいですね。個人としても優秀な方は多いですので。

並木様 インナーブランディングを進める際は、作ったものを社員全員で理解し、加えて作る過程や考えの変遷も含めて伝えていく、というのが第一ステップです。しかし、実際のブランディングという意味では、その先の個々人の、特に営業担当者の顧客に対する振る舞いがブランド体験のほとんどになってしまうのが実情です。営業担当者の対応が良いと、他社と比較購買しなくなる「接点」にもなる。コマーシャルの目的は、まずは比較購買の土俵に上がることなのですが、消費者との「接点」があったときに比較購買しなくてもこの会社がいい、と思ってもらえる点を作れるかがとても大事です。単純に「接客のクオリティを上げましょう」だとまたコモディティ化しますが、掲げているブランドプロミスがあって、このプロミスに則ってこういう言葉遣い、連絡頻度、接客態度に、というふうに出来ていくと、そこに初めてブランドができると思っています。

久松 法人としての人格を持つということですね。こういうことやる人だから、この会社の人だからこうしてくれるよね、などの信頼を得るということですね。

並木様 はい。そうすると扱っているものが同じでも、そこにブランドっぽさが出て、プロミスがきちんとしていれば、それを良いと思ってくれるお客さんがいるはずです。そこまでできると営業マンもハッピーですし、理想なのでしょうけど、なかなかそこまでは難しいです。不動産仲介業者がそれをできると強くなる可能性はあると思います。またプロダクトを作っている方はエンドユーザーとのコミュニケーションは少ない傾向があるので、もっと商品をとがらせつつ、もっとコミュニケーションをとるようになればいいのかなとも思いますね。

久松 地方のプレイヤーが何かを始める際、ご相談は可能ですか?

並木様 はい。実際にお声がけいただくことは多いです。 ブランディングというのは、もともと企業が持っている価値を、企業が伝えたいポイントを軸にして、より適切に広く伝えるかという視点が多かったように思います。これって、ほとんど主語が企業なんです。いまはやはり「企業が」では伝わらない時代になっています。ブランドを考えるのであれば「人が何を思っているか」。例えば20問くらいの調査票を作って、生の声をエンドユーザーから聴く。それを経営層自らやる。こういったことから始められればブランディングの質は変わってきます。

久松 まずは経営層に「正しく現状を認識してもらう」事が大切ですね。

並木様 そうですね。それがすごく重要です。真摯に声を聴くことから始めるって大事ですよね。同時に、「聞いたことをそのままやればいい」では「らしさ」が無くなるので、聞いたうえでうちは何を軸にしているのかという交差点を気にすることが大事です。とくに地方プレイヤーがローカルで意味のある存在になるにはすごく重要な点だと思います。

久松 不動産業界の経営者は他の業界と比べても年代が高く、若いユーザーの動向などは追い切れていない部分も多いと思います。

並木様 まさにそこが課題です。地方のプレイヤーの社長さんだと成功体験を持っているので、声を聴くことに対する感度が低い方は多いですね。「聞いても意味はない」とか「聞いても分からない」とか。半分正しいですが、そうであっても聞かないという判断は良くないですね。聞いてから判断すれば良いじゃないですか。でも「聞く」をやらない人がすごく多いので、地方の会社が沈んでしまう理由はそこじゃないかなと思います。エンドユーザーとの距離の近さがすべてで、圧倒的に近くにいる企業としての動きはやっぱり迅速に素早く動けるんですよね。

手段としてのデジタルマーケティング、DX

久松 人口増加のボーナスでうまくっていたところが、ここから先どうなるか、どのような手を打っていくかが重要ですね。

並木様 いま、DXの話もデジタルマーケティングの重要性も問われていますけど、結局やっていることというのは「どう発信するか」「どう情報提供するか」「どうインタラクションするか」がほとんどです。一歩進めて「どう行動するのか」までCRMも含めてやっている企業も多いと思います。しかし、「なぜやっているか」「なぜ自社のサイトに来て、滞在時間が20秒で離脱するのか」や「なんでこっちの人は5ページもみてるのか」など「なんで」がわからないと打ち手のいたちごっこになってしまいます。デジタルマーケティングはもちろん大事ですが、同じくらい「なぜデジタルマーケティングが成功しているか」も含めて知るというのも重要かなと思います。

久松 デジタルは手段に過ぎず、いままで見えていなかったものがデジタルによって可視化された。だからその先の、そのデータをどう使うかが成長の鍵になると感じています。

並木様 そうですね。ただ、やらなければ競合に負けるのでやるのですが「その方法をとれば勝てる」という世界は永遠にやってこないですね。基本、みんな同じことやりますから、常に走り続けないといけない構造です。ただ、途中で走るスピードを変えられるようになる基盤を作るのが大事です。そういう意味でもブランディングは大事ということです。

高橋 ただの見込み客集めのためのデジタルマーケティングだと意味がないですよね。

並木様 そうですね。私としては、どこまでいってもデジタルマーケティングにおける表現はブランドらしさを担保してほしいと思っています。どうリーチするかという問題はありますが、リーチする手段に至ったら「目につけばいい」ではなく、ブランドという視点を疎かにすることなくやってほしいですね。ABテストを実施するにしてもAでもBでもかならずクリエイティブの中にブランドらしさがあるというのは担保する必要があるのかなと思います。


並木 将仁 代表取締役社長兼CEO
戦略コンサルティングファームにて、企業戦略、事業戦略、ブランド・マーケティング、デジタル、M&Aなどにおけるコンサルティングを中心に、包括的に企業の成長を支援。特にオムニチャネル&デジタル時代における顧客体験の向上を通じたブランディング実現を強みとしたコンサルティングサービスを、多数実施。その後、2015年にインターブランド参画。顧客体験をベースとしたブランド価値の向上を、ロジックとクリエイティブの融合から実現することを主眼として、クライアント支援を実践している。

株式会社インターブランドジャパン
インターブランドジャパンは、ロンドン、ニューヨークに次ぐ、インターブランド第 3 の拠点として、 1983 年に東京で設立されました。「カスタマー・エージェンシー」として、オンラインコミュニティ運営、 顧客との共創ワークショップなどを通じて経営に顧客視点を組み込む支援をグローバルで展開しているグループ会社 C Space(本社:ボストンおよびロンドン、国内拠点:東京都渋谷区)とともに、日系企業、外資系企業、政府・官公庁など様々な組織・団体に対し、トータルなブランディングサービスを提供しています。 インターブランドジャパンについての詳しい情報はhttps://www.interbrandjapan.comをご覧ください。

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